4話 棹姫鷹

───ぼーっとしていたのが良くなかったのだろうことはわかっている。 私は二月ほど前に家族のもとから離れ、船旅をしていた。うちにある船は兄の物しかなくて、それを勝手に持っていくわけにもいかず困っていたとき、たまたま暮らしていた小さな島に木の小船が流れてきた。 ところどころ破損はあったが、家にあった木材でせっせと修復し「ちょっと行ってくるね」とだけ告げ、最低限必要なものを片手に着の身着のまま飛び出した。 何の覚悟もなく飛び出したわけではなかったけれど家族に大切に愛されて育った自覚のある私に、広大な海のなかで一人、ぷかーと浮かぶのはなかなかに堪えた。 初めについた島でベストと、ゴーグルを購入した。自身の特徴的な瞳を隠したくて。 ───お金は兄が用意してくれていた。 食事は干物ばかりで時たま立ち寄った島で暖かな食事を取れるぐらい。二週間ぶりにまともな食事にありつけたときは兄の作ってくれていた食事を思い出してしまって、思わず泣いた。 そういうとき、家族のもとに帰りたくなる。 旅先で「一人旅をしている」と言う度に不思議そうな顔をされてきた。胡乱気な、信じられないものを見る眼差し。訳ありなのかと気遣いながら「うちの村に住むかい?」と言われたり「こんな御時世に女一人で旅をするなんて…何があるかわかったものじゃないよ…」と言われたり。女の一人旅というのはこの広大な世界でも存外珍しく、目立つものであるらしかった。 何故、そう言われるのかはわかっている。私にも弱い自覚はあるのだ。私の兄はとんでもなく強かった。だからこそ自分の弱さは誰よりもよく知っている。強い人だ、兄は。その強さに甘え、その庇護のもとのうのうと生きる自分が許せなくて旅立った。なのに私は何一つとして未だ成長できていない。 旅の途中、何度か襲われた。 家族と共にいたときはそんなことなかったのに。 変な輩に近づかれることなんてなかったのに。 むしゃくしゃしながら兄に守られていたんだ、と何度奥歯を噛んだか。 今までの自分があまりに嫌で、髪もきつく結び、特徴的な瞳を隠すためにゴーグルを買った。 少し視界は悪いけど、兄ならこの程度の視界の悪さ、何の障害にもならないのだろうと思うと悔しかった。 ※ ───たぷん、たぷん (そろそろお風呂に入りたい……) 目的も行き先も決まっていないこの旅の終着点をどこで迎えるか。慣れぬ一人旅に疲れが出てきて、ぼーっと広い空を見上げていた。 どこまでも広がるような青い空にふわふわとした入道雲。近くに夏島があるからだろうか、と取り留めもなく考える。 私の乗る船以外浮かばぬ海にいると、まるで世界に一人だけのようなどうしようもない孤独感を抱く。次の島までどのくらいだろう。 「クゥーエックゥーエッ」 きょろん、とした黒い瞳がこちらを見た。真上を滑空するカモメの鳴き声とざぶざぶという波の音に安心する私がいる。幼いころから船旅をしてきたから孤独感は抱けど、海の上での暮らしに不安を感じたり、船酔いすることはない。人生の大半が船旅であった私からすれば、海が故郷のようなものだから。 ぽかぽかと、暖かな太陽の陽射しに晒される。じりじりと肌の露出している部分が熱せられていく。船旅だけど、私の身体のほとんどは布に覆われている。暑くじめじめとした表皮に巻き上げたい衝動に駆られるが直接熱せられるのとどちらがマシであろうか。あまり露出すると兄が嫌がったから私は長年の船旅で、その殆どを露出の少ないかっこうで暮らしてきた。 そう思考を走らせて自嘲する。兄はこの場にいないのに。私が置いてきたのに。あの、小さな島に。 (けれど……) 兄は私がいなくても何の問題もないだろう。家族だからこそわかる。兄は私がいない退屈だと言ってくれたけど、私がいても「ヒマだ」と言っているから。 ───嘘吐き そんなこと口が裂けても言えはしないが。 兄のことを考えて意識を別の空間へと派遣していたところ、頭上に影が差した。ふと、声がして顔を上げると自身の乗ってきた船よりも大きな麦わらを被ったジョリー・を掲げる海賊船が迫ってきていたのである。船の前面についた羊が私を見下ろしていた。 第二話棹姫鷹 その船を兄のように切り捨てなかったのは自身の技術では不安な面があったのもあるが、なによりもおそらく親切心で声をかけてくれたであろう人物を傷つけたくなかったのである。 なかなか乱暴に船に落とされたときは切り刻んでやったらよかった…!と悔やんだが。しかし、あのまま声をかけられなければ、流れに身を任せてぼーっとしてしまっていた私は、私の船は、呆気なく粉砕していたであろう。ならばその親切心を無下にするということは私の命を無下にするのと同じではないかと思うのだ。 がさがさ、と布にしては硬い音が耳に障る。中身を確認して目当てのものを取り出せば、手元から生じていた音も鳴り止んだ。 開いた麻袋には舟の中にあった殆どのものが収納されている。元々身軽な旅だ。さして荷物は多くない。 現在両手にある剣さえあれば、なんとでもなる。そういう世の中だ。 この剣さえあれば。 「あなた、これからどうするの?」 ボブのオレンジの髪を揺らす女に問われて、これからどうしようか一考する。乗ってきた船は完全に破壊されてしまった。かといってここは大海原の中央。家族の元へ戻るにしろ、旅を続けるにしろ、ここで放り出されてはひとたまりもない。 と、ならばこれからできることなど一つしかないだろう。 「私をこの船に乗せてくれないだろうか」 ───それに、この騒がしい四人とともにいるというのも、なかなかに楽しそうなのだ。 ※ 太陽のような男が目前で笑っていた。あまりに眩(まばゆ)くて、目を眇める。この光を見たことがある。赤の髪、金の髪、黒の髪、それぞれに共通するのは………。 目を眇めた。今度は眩しさ以外に。あの者たちと似た光だけど、どこか違う。何がだろうか。 「海賊王ね……」 (しょうもなっ!) 心の中で吐き捨てる。冷めた瞳で見てしまっていることを自覚している。声に出すなんてことはしない。 《”海賊王”ゴールド・ロジャー》その存在にあこがれる人間がやまのようにいることも、そうして海へと旅立つ人間がごまんといることも私は知っている。 何人も見てきたその存在に憧れる人間を。手を伸ばす人間を。《秘宝(ワンピース)》それがほんとうに存在するかは知らないけれどその存在を追い求める人間を見る度にどうしても冷めた感情になってしまう。 口が裂けても言えないけれど。 しょうもない、過去、そう思ったあのときどき、あのタイミングで言ってしまっていたら、私の首はとっくに胴体とおさらばしているだろう。 兄が守ってくれると言っても限度があるから。 この世界の広い海で、その地位を目指す強者(つわもの)は数多いる。その者たちにしょうもないなどと言うことは自殺行為だ。だからこそ、その言葉を聞くたびに胸に閉じ込める言葉が増える。 もちろん、兄が目指すというなら全力で支援するが。兄はそんなこと言いはしないだろう。 この男にその地位に上り詰めるまでの技量と器があるのだろうか。 私の知識を、役に立つんじゃねえか?と軽く言い放った男は現在仲間探しの最中だという。音楽家を一番求めているらしくなんかできるかと聞いてきた。 ……なんで音楽家?もっと必要な役職があるでしょうに。 疑問に思いつつもまあいいか、と流す。 「しっかりと習ったわけでもないから、特にないかな」 せいぜい、ストリートピアノとかを見つけたら気まぐれに鳴らすぐらいである。 「じゃあ記録士は?」 夕焼け色の髪の女が尋ねてくる。 肩にかからないほどの長さに航海中、何度か髪を切ろうと思ったのを思い出した。 「記録士……」 航海の記録をつけたことがないわけではないが、気の向くままに進んでいったため、ろくに記録なんてつけていない。 精々家族とともに居たとき───ですら、まともにつけたかは怪しかったが。 できるだろうかと考えて、まあできるかとウンウン頷く。 「良いかもね……でも」 けれど、と口を開く。躊躇いがまだあるのだ。 「悪いけど、あなたの船員になるのはちょっと考えさせてくれないかな?」 私の行動で兄に何か影響を与えてはいけない。私がここの船員になることで兄がこの海賊に下ったなどと噂されては困る。 兄の評判にたとえ小指の爪の先ほどでも傷がつけば兄に申し訳がたたない。 ───だから、一度冷静に考えねばならない。 「ご相伴に預かりまして。いただきます」 お腹が満ちると眠くなるのが人体の道理。 騒々しいなかで私は瞳を閉じた。 ※ 鼓膜を聞きなれた声が震わせた。低い声は私に安心感だけを与え……聞きなれた声?声!? 思わず飛び起きる。 慌てて駆け出し甲板から下を覗く。斬撃音が聞こえたからだ。その視界に入るのは剣を振るうゾロとそれを受け止める…… 「兄さん!」 甲板から身を乗りだし叫ぶように声をかける。 ゆるりとした仕草で振り返った兄の視線が私を貫く。 目があった。 鋭い自身と同じ、の目が。 「ああ、ミラーカか。お前、ここにいたのか」 驚きを灯して微かに見開かれた眼差しにこくり、と私は肯定する。 「うん、言ってなかったっけ?」 「ああ、偉大を出るとは聞いたんだが」 「そっか……、それは、ごめんなさい」 しょんぼりと肩をおろして告げる。兄への情報に不足があって、それで兄を動揺させてしまったというならば、それは私の責である。 「いや、何も気にすることはない」 「……ね、ねえ、兄さん!な、何……やって…………」 兄が目の前に現れたという衝撃も、会話をしていくうちに冷静になって兄の姿を改めて見る。そして、ゾロの心の臓の前に向けられた十字架にひやりとした。 「あの……兄さ……」 止めるか逡巡する。 兄は止めるのをきっと望んでいない。 上げかけた手を下ろし、瞼を伏せる。 兄が夜という黒を抜き、構えた。 打ち合い、ゾウが両手を広げる。 兄さんの望みを邪魔することはできない。 口を結ぶ。 だけど。 「待って!兄さ……」 「兄さん!!」 ※ ゾウの無事を知り胸を撫で下ろした。 ───剣は振り下ろされたが命を取ることはなかった。 あんな大声で宣言できるということは、死にはしないのだろう。 とかいう海賊に対して、帰るという兄に近づくべく、船の上を走る。 「待ってください、兄さん。私……せっかくお久しぶりに会えたのです。もうちょっと一緒にいれない……?」 兄がやはり恋しくて、横槍なんて気にせずにみっともなく追いすがる。 (久方ぶりに会えたのに……。) 幼稚な私はその思いを捨てきれない。 たとえ、このまま兄の船に乗り出航しようと後悔はない。ルフィ達に対して、自分を拾い滞在させてくれた恩はあるが兄の前には有象無象。 だから、もう少し話したい。そう思って俯くと兄が船を私の元へ寄せた。ホッとして、同時に喜びが沸き上がる。 しゅたん、と特徴的な十字架へと飛び移る。 瞬間兄が剣を振るった。酷い水飛沫に凄まじい勢いで船が動く。 濁る視界に重たいゴーグルを押し上げる。解放感に身を包んだ。 ゴーグルの下から出てきたつり上がった瞳は目の前の男と同じもの。 私は懐かしい船を見回してあれ?と首を傾げた。 「兄さん、また何だかボロくなっていませんか?」 帆のほつれが酷くなっている。酷い荒波に耐えたのか小さな擦り傷が船体のあちこちについていた。 ゆるやかに停滞していく船と黙りこくった兄を放って懐かしき兄の船へふらふらと視線を走らせる。 「……何故(なにゆえ)先ほどロロノア・ゾロを庇った?」 兄が、口を開いた。 「それは……私を船に乗せてくれたから……?」 私にもよくわからない。わからないのだ。ある種、咄嗟であった。……まだ会って2日しか経っていないのに。航海していないのに。 けれど、私より優秀な兄の脳は何かしらを感じ取ったのだろう。顎に手を当て考え込んでいる。───優秀なのは本能かもしれないが。 「ふむ……そうか」 「兄さんこそ、何でやめたの?」 私が止めたからではないだろう。兄さんはそういう人間ではない。……いや、私が本気で止めたらやめてくれるかもしれないけど。 にこり、と微笑んで尋ねるが答えを聞いて硬直する。 「面白い男を見つけたと思ったのだ。あの男は見込みがある」 ───その言葉を聞いて胸を疼かすのは、胸中を渦巻くのは、 激しき憎悪、妬心。 眉間にぎゅっと力がこもり、視線が険しくなっていくのがわかる。醜く、みっともなく、未熟な感情。普段であればこんな感情、気取られまいと振る舞えるのに。冷静に、なれない。 初めてだ、こんな言葉。 いや、久々か……?思考を巡らせるけどぽやん、ぽやんと浮かぶ兄が認めた人物は、私が物心つく前ほどに兄と出会い戦った人物たち。だから、兄がこんなことを言うのを聞くのはきっとこれが初めて。 むう、と眉間に皺を寄せて考え込む。ぎゅっとベストの胸元を掻き抱いた。 「そろそろ帰りたがっているかと思ったが……杞憂だったようだな」 ぽつり、と呟かれた声に顔を上げる。どこか普段より暗い瞳。でも、柔らかい目元や口角には慈愛が滲んで見えた。 「?うん!」 にっこり微笑む。大好きな兄さん。あなたに会いたかった。ずっと側にいただけに離れていた期間の寂しさは尋常ではなかった。 「あのね、兄さん」 兄には会いたかった。けれどまだ帰るつもりはない。たった二人きりの島でただ守られるだけの日々なんて耐えられない。 「私、強くなるよ。きっとなれる気がするの」 あの船に乗り続けたら。停滞しきった人生に変革が起こる。そんな気がする。 ───緩やかに、船が動き出した。 「そうか、では気をつけろ」 「うん」 「お前が負けるとは思えない。お前が死ぬとは思わない」 「……うん」 そして見栄を張る。 「兄さんの妹だもの。負けたり、ましてや殺されるなんてありえない」 にっこり笑った私に兄は満足気に笑みを返した。 「ふはははっ!そうか!そうか!お前はこのおれの妹……案ずるな、強くなる。ただし約束は忘れるな」 笑みを苦笑に変えながら黙って頷いた。……最強の名を冠する兄の妹が弱いなんてありえてはならない。……そして私と兄の間で交わされた約束が破かれることも。 「そういえば、なんで兄さんはここにいるの?わざわざなる航路から来る用事なんてあった?」 「ん?……ああ、ヒマつぶしだ」 「……そう」 そんなもののためにわざわざ東まで?と思ったが、私も同じようなもののため口を噤んだ。 それに兄さんの悪癖はよーくわかっているから。まあ、そうだろうなという感じである。 ぷかりぷかりと人が海に浮いている。 何故だろうかと不思議に思って見ている。殆どは生きているようだが、兄の船に驚いたのか慌てて暴れるものだからぶくぶくと沈んでいっていた。気が向けば手を引いて浮かす。 兄が船を進めると木片が増えた。兄の切った残骸かと思ったが、沈んだり流れていっている頃のはずだ。なぜ?と疑問を覚える。 少し進めば私が先ほど見たときよりも酷い姿の船があった。 ───ゴーグルを下げる。 くるりと踵を返して歩みを進めると兄に呼び止められて、足をかつん、と揃える。 「待て、ミラーカ」 「なに?兄さん」 振り向くと小袋が投げられる。 「土産だ」 「みやげ……?あっ!」 合点がいって急いで中を覗く。やはり思った通りのものが入っていた。 「ありがとう!兄さん!!」 そう告げると兄がパに兄の船を近づけてくれたのでそこからぴょんと飛び移る。 「え、は?え?鷹の目の男!?」 兄の再来に慌てる連中をちらりと見て口を開く。 「何もしないよ……しないよね?兄さん」 「……ああ」 周りを見渡して、私が拾い上げられた船が見当たらないことに気づく。私の顔は怪訝な表情へと変わった。 「あれ、ゴーイングメリー号は?」 「ナミという者が盗んだとかで、お前の仲間とかいう連中が追いかけて行ってたぞ」 「えぇ……」 「どうする?」 私の質問に答えた兄が問い返してくる。どこかわくわくとした声音に即答する。 「いや、普通に追いかけてでも乗るけど」 次いで苦笑する。 「何?兄さん。寂しいの?」 「……ああ、そうかもしれんな」 「行かないでほしい?」 振り返って問うと、兄は笑った。 「いいや、行け。どこへでも。お前の心の赴くままに」 「はーい!」 意気揚々と返答しふふ、と微笑んだ。兄も笑う。そうして兄が剣を振るえば───兄の姿は視界から消えていた。 「えっと……どういう状況?」 死屍累々、その単語だけが浮かぶようなあんまりに悲惨な……というほどでもないが、なんていうか、まあ戦ったんだなあ、という印象だった。 そんな酷い場所でくーくーと麦わら帽子を纏う男は眠っていた。太陽のような男が。 そしてその横では、船に海賊たちが積まれていく。 積まれていく??(・・・・・・) 「何やってるの?」 「この船にクリーク団の全員を乗せてんだ」 「へぇ、そう」 なんで?とは聞かない。いちいちこんなこと聞いていたら偉大なる航路で生きていけない。……まあ疑問ではあるけど。 「すげぇぞ! コイツ!」 コックの一人がルフィを指差す。 「コイツ! ドン・クリークを倒しやがった!」 「そう……なの? それは良かった」 まあ兄さんでも倒せるだろうしな、と思うといまいち強さがピンとこず歯切れが悪くなった。 「どうせならもっと早く来てくれりゃよかったのに」 ルフィの拗ねた声にまあ、確かにと納得して謝罪をする。 「それは……なんだか、すまない」 「アニメってそんなすごい奴なわけ?」 びーびー言うに3人合わせて首を傾げる。唐突に始まった解説を聞き流す。 「三大勢力……」 ああ、と脳内にいくつかの顔を浮かべる。四と七と海……でいいのかな 「兄さんもそうだよね」 「はい、のをうち負かせたはの一人ですね」 「ふーん、聞いたこと無いんだけど」 「ええっ!?」 「はあるんだけどね、あの人も七つ海だし」 「ずいぶんと食い意地が張ってるね、もう少し落ち着いて食べなよ」 「あ、このワイン。悪くないな」 迫る気配におやと目を瞬かせた。それと同時に大きな牛が海から現れた。 「お前、アイツの妹なんだってな」 「アイツ?」 「鷹の目」 怪訝そうに問う声に、誤魔化す暇を与えぬようゾロが即答する。 「……ああ、そうだよ」 だから何?と言わんばかりの態度にウソが口を恐々と開く。 「じゃあ、おまえの名前って……」 「ジュラキュール・ミラーカ。私は王下七武海・鷹の目ジュラキュール・ミホークが妹、ジュラキュール・ミカーラ」 躊躇いのなく開かれた口から告げられた名はこの世界で最も恐れられる名の一つ。そしてその縁者であることが告げられる。 持ち上げられたゴーグルから覗く瞳はさきほどの、の目の男と同じ。 ぐるり、ぐるりと全てを呑み込むような瞳は。涼し気な眉は。かすかに上げられた口角は。 どこか試すようであった。この名を聞いてお前たちはどうする?と。 「そうか!」 ルフィが声を上げた。さて何が続くだろうと構える面々の期待に反して言葉は続かない。 それだけであった。 それが答えであった。ただその事実だけを了承する。それだけの言葉。 私はルの方をばっと振り向いた。そして、続かぬ言葉にふっと笑った。 「うん、そう。……ねえ、ルフィ?」 「なんだ?」 「私、このまま乗っていい?」 「ああ、もうお前は仲間だしな」 「そっか……そっか!!」 ニッと笑って飛びつく。避け損ね、受け止め損ねたルフィと共に倒れ込む。 「うわっ!なんだ突然?!」 はははっ、と笑い転げる私に視線が集う。 「いいよ!いいよ!!私っ!君たちの仲間、ねっ!」 「やべぇ、鷹の目の妹を仲間にしやがった……」 ウソップの声はケラケラという私の笑い声にのまれ、消えた。 ※ 「それで?お前、つえーのか?」 「強い?」 素っ気ない声がでた。 「だってあいつの妹なんだろう?」 「……まさか、私が兄さんみたいに強いと?そんなわけないじゃん。……兄さんみたいに私、強くない」 むっと口を閉じた。声音に嘲りが混ざる。 「でも、強くなる方法ぐらい知らねえのか?」 なるほど、ゾは兄の強さに近づくために、鍛錬の仕方を知りたいのか。 けど、そんなの私が知りたいくらいだ。 「うーん……ストレッチとか?体の隅々まで柔らかく動かすためにかかすなって言われたことあるけど」 そこまで言って耳元で兄の声がした。 ───兄が言っていた。面白い男を見つけたと。見込みがあると。 その事実にぎゅうと目を閉じる。腹立たしい。なぜ、なぜ。兄はこの男に何を見出したのだ? 「あ?なんだ?」 目を閉じていることには気づいておらずとも、黙りこくって俯いた女にゾウは違和感を覚えたのだろう。 私は小さく息を吐いて、顔を上げる。 「……なんでもない。なんでもないよ。私のこと、あんまり戦力として期待しないほうがいいかも」 「なんでだ?」 「言ったでしょう?私は兄さんみたいに強くないって。私のできることなんて記録ぐらいだよ、それにナミがいない間の航海ぐらい?」 ───それに約束のこともあるから。 そのことを言えない私の声音には自嘲が混じった。 目の前で口を噤(つぐ)んだゾウが苛立たしかった。 ……なんで、なんで私は強くないんだろう。 あの(・・)兄さんの、妹なのに。 「お前は強くなりたいのか」 当たり前だと叫びたい気持ちを堪(こら)えて、私は頷く。 「……うん」  栄養バランスも完璧である。すごい。 「私もパス。他人の過去を詮索する趣味はないの」 立ち上がり、 「海外も腐ったもんね」 「あんな小物にどうこうできる訳ないでしょ。精々賞金をかけるだけ」 「すげえことじゃねえか!?」 「そう?私も元賞金首よ」 「うそだろっ!?……元?」 「兄さんの七つ海入りを機に賞金は取り下げられたの」 肩をすくめながら答えた。 「何見てんの?」 刀の並んだ店に あんまり自身の懐も豊かではないが提案する。 「兄さんが壊してしまったんなら私が責任とろうか?」 「いや……いい。……ところで、金って貸してもらえねえか?」 「無論、構わないけど」 「いい剣筋の子ね」 「……ああ」 戦い方からして海兵だろうか?転がってきた眼鏡を拾うゾウの目が急にぼーっとしてどうしたのだろうかと首を傾げた。ボキッという音にイヤな予感がしてゾウの手元を見る。 サッと踵を返し裏路地に紛れる。 高い声を背に表通りに出た。青空の下に並ぶ果物を眺める。いくつか購入して口内に入れながら裏通りを歩いているととある店名が目を引いた。──ゴールドうちの船長さんが喜びそうだ。 合流後の話の種になりそうだと暖簾をくぐった瞬間、顔に煙が直撃して眉を寄せる。暗い店内の壁にはずらりと酒瓶が並んでいる。 「客は一人のみ?」 ……それも海兵。 口元に加える2本の葉巻に煙たい原因はこいつかとゴーグル越しに見下ろす。 賞金首としてされていたときと格好は違うからそうそう気づかれないと思うが。今までだとて気づかれなかったし。 机の上に乗っているグラスの底に残っている白い液体に疑問を浮かべる。 (なんで飲み屋でミルク……?) 「お嬢ちゃん、旅人かい?」 「まあね、ワインはある?」 店主の言葉を肯定し、海兵から二つほど空けた席に腰掛ける。 「赤なら」 「そう、お願い」 グラスに入ったワインを傾けながらオレンジの皮を手持ちのナイフで剥く。 騒がしい音が耳に入って 「モンキー・D・ルル」 漏れ聞こえた言葉に目を開ける。……ルー?我らが船長のことか?あの人、姓モンなの?確かモンって、の英の姓と同じじゃなかったっけ?出ていった兵に慌てて2000ベッドを払い、釣りを要求する。 ナー、船の向き反転しかけてるけど大丈夫そう? おかしい。海が歓迎されるなんて、早々ない さほど豊かでもなさそうなのに、この歓迎ムード。 漠然とした胡散臭さを抱いたが 「そう、とりあえず20」 「あんた正気?」 「お酒には強いから」 「いいわ、負けたら承知しないわよ」 ずいぶんとがたいのいいシステムさんだと思いながらジョッキを傾ける。 ゾのでていった気配に寝たふりをやめて深い眠りに身を任す。 ……まあ、なんとかなるだろう。 そう考えた瞬間、首筋を冷たい雫が伝った。 胸元に感じた振動に重たい瞼を持ち上げる。 「かわいいじゃん」 動物は好きだった。 ふらふら揺れる船旅で側にいたのは兄とカモメだけだったから。 「七星剣のクロンクロン?!あの男がそんなことを?確かに胡散臭い男だけど、一応は英雄と呼ばれているんじゃなかった?アラバ、スコで……」 「よく寝た……ん??」 「元気ねえ、」 「そうだね」 「悪いんだけど、少しの間代わりに針路を見てくれる?」 「もちろん」 「異常気象による?そんなことあるの?」 「誰もがみなあんたみたいに頑丈じゃないのよ」 「困ったね、私も兄も病気になんてなったことないもの」 「しかたないんじゃない?海が好きな人の方が少ないでしょ」 「あんたら片方じゃ不安なんだもん」 「だが……私、何かあれば起こしてと言った」 「鳴いてもつついても咥えても起きなかったって言ってるぞ!」 「そうか……それはすまない」 「いや!咥えてもってどういうことだよ!!」

あとがきなど

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