乞われて、恋われて、壊れてね

私の友人には好きな人がいる。
熟れた林檎の髪を持つ少女。
友人と幼馴染みだという彼女は底抜けに明るく優しくそれでいて理知的で。
彼女の知性が滲み出たように美しい少女だった。

視界の端に黒髪が写り、私は吸い寄せられる。

「おはよう、セブルス」

笑いかける私に男は─セブルス・スネイプはむっすりとしながら頷いた。

「今日の魔法薬学ってペアはもう決まった?よかったら私と組まない?」
「……別にいいが。いつも組んでいる奴らは?」
「あぁ、……聞いてくれる?セブルス。ひどいのよ、何でも婚約者と組むんですって!」
「婚約者?」
「ええ、先日決まったそうよ」
「おはよう」
「あらおはよう、マルシベール。ちょうどあなたの話をしていたの」
「おれ?」
「ええ!私、あなたのせいでペアに断られたのよ!」
「ああ……せっかく婚約したんだから一緒に組みたいって言われてな。次からは別にしようか?」

悪戯っぽく笑うマルシベールは私のセブルスへの気持ちに気づいている。断るのを承知の上だろう。

「いえ、いいわ。馬に蹴られたくないもの」

笑うマルシベールに私と同室の彼女に対する想いはないだろう。あっても親愛。それを酷いとは思わない。彼女にだって愛はないのだから。一緒にペアを組みたがるのは婚約していると知らしめるため。そして大切にされているという見栄。せいぜいそんなところだろう。

「そういえば、ルシウス先輩が仰っていたわ」
「なんと?」
「次の集会にセブルスも顔をだしたらどうかって……。あなたは、半純血だけど……プリンス家の血筋なのでしょう?何の心配もいらないって!」
「先輩がか……そうか!」

口の端を上げた友人に私も嬉しくなる。だけどその気持ちはすぐに影がさす。

「あっ!リリー!!」
「あら……」
「残念だったな」

駆けていくセブルスに落胆の声を漏らすとマルシベールが笑いながら告げた。

「ふふふ、何が残念なの?どうせあの二人が結ばれることはないわ……セブルスがマグル生まれと結ばれるなんて……そんなの無理よ」
「ひどい友人だな?」

微笑みで黙殺した。あのマグル生まれは純血主義に染まり、闇の魔術に傾倒するセブルスを理解し真の意味で受け入れることはできない。なのに何を焦る必要があるのだろう。

私だけが彼の良さを知っている。彼のことを理解している。
そんな仄暗い感情が芽を出す。

私の生家は聖28一族に名を連ねる言うなれば純血名家と呼ばれるような家だった。とはいえ、すでに斜陽にある我が家は分家筋にいつ取ってかわられるやも知れず。せめて、少しでも良家と婚姻を結べと幼き頃から口酸っぱく言われてきた。
卒業後の私に自由なんて一つもないのだろう。
だから、だから在学中ぐらい。好きにしてもいいだろう。

「誰もあなたのことなんてわかっちゃいないのよ……彼女はマグル生まれだもの。しかたないわ」
「……」
「やだ、どうしたの?なんだかご機嫌が悪い?」
「喋りかけないでくれ!」

弾かれた手に驚いて固まった私を見てもっと驚いた顔をセブルスはした。傷ついたような顔を。

「……っ!」

走り去る彼に手をさすりながら口を尖らす。

(あーあ、つまんないの)



早く、私と同じところまで堕ちてきてくれたらいいのに。



彼が幼馴染にこっぴどく振られたと聞いて、私は慌てて駆けた。
 蹲って肩を揺らす彼を見つけて私の口許がにんまりと弧を描いたのがわかる。
わざと足音を鳴らして近づくが私だとわかったのかそれとも気にする余裕がないほど憔悴しているのか、顔を上げはしない。
そっと首もとに手を回し、耳もとでささやく。

「ねえ、セブ。私はあなたを愛しているわ」

───ああ、堕ちろ。この手のなかに。

  あのとき大仰に肩を跳ねさせ、そして振り向いた彼を。ゆっくりゆっくりと堕としていった。はやく、はやくと。私と同じところまでおいでと。

毒を渡した。─魚を浮かせた。
ナイフを渡した。─ウサギを裂かせた。
本を渡した。─人を殺させた。


敵意に満ちた彼の幼馴染みには笑みを与えた。