ある男の話

閑話

恋心



わかっていた。実らぬ恋だということぐらい。 この思いが実らぬことなど。 唯一の親族に対するの執着(束縛)は凄まじく。

彼女と初めて出会ったのは王宮の謁見の間だった。  西日に照らされたまだ 切りそろえられた細い亜麻色の髪、豪奢な赤の着物に覆われたほっそりとした白い手足。鮮烈なまでに赤い瞳。 ファミマ内で何人もの子供を見てきたが流石はの姪というべきか、 「んねードル、なんだ?それー」 の帰還に頭がいっぱいであったグラスはその時になって初めてその脇に抱えている子供に気づいた。 「マリンで拾ってきた」 本部のある島で? 猿轡のごとく口にも全身にも糸をぐるぐる巻きにされて、それでもなお糸で切れたであろう小さな傷が何箇所かあることから抵抗の酷さが伺えた。 がしゃがみ込みなぜか丁寧に床へと置いた。 そして、目の前の椅子に腰掛けると指を動かし少女の糸を切る。 「ちょっとなにするのよ!ここはどこ?何が目的?」 小さな口を動かして姦しく騒ぎ出した。 「こんなことしてただで済むと思ってるの?……今なら私も……」 そう言い募ったときただ見ているだけだったがドイツやっと口を開いた。 「お前おれ達に見覚えはないか?」 「は、あるわけないじゃない……待ってそういえばあなた新聞で……そうよお祖父様の書類にも……あなたは…確か……」 さほど無知というわけではないらしい。ドイツの立場へ思い至ったのだろうか、少女の瞳は見開かれ、顔はどんどんと青褪めていった。 「お前父親の名は?」 「言うわけが……っ!ロン!これで満足?」 拘束の力が強まったのか一瞬息をつめて名を吐いた。少女の着ている赤い着物が裂け、内布が見える。 「ロンだと!」 「……やはりか」 「なに?あんたら父上と戦ったことでもあるの?もしかして逆恨み?あんたらが海稼業なんてしてるのが悪いんでしょ……!」 恐怖からか涙を浮かべながらも睨(ね)めつけ鼻声混じりに 「母親は?」 「知らないわよ!」 「名を聞いているんだ、ヒルデ」 「……だから知らないって!」 「お前のお祖父様は教えてくれなかったのか?ん?」 「……だからそうだって言ってるじゃない……お祖父様も知らなかったらしいもの……」 「そんなわけないだろ、自分の娘を忘れる親がいるのか?」 「あなたが何を勘違いしてるかしらないけど!お祖父様は父上の方のお祖父様よ!母親の一族なんて会ったことない」 「そんなわけないだろ、あいつの父親は生きていない」 「何を言ってるの?あなたが父上の何を知っているの!」 「おれはあいつの兄だ」  少女は顔の中心へぎゅっと皺を寄せた。なにごとかを聞いていたのだろうかとグループは首を傾げる。 「父親から、なにか聞いてねェか?」 「知りません!けど……父上が兄弟についてなにごとかを悩んでいるのを聞いたことがある……そりゃそうよね、海だなんて、悩むに決まってる」 「……なあピ、頼みがあるんだ」 「いや!いやよ!こんなところいたくない!!」 初めの頃はほんとうに酷かった。何かにつけて喚き、助けを求め、逃げ出そうとしていた。常に警戒し皿一つ割れる音で癇癪をおこした。どこぞの野生動物のように物陰に隠れ息を潜めていた。そのたびにそこから引っ張り出すのが面倒だったが我らがはひどく面白がっていた。 少しでも反応を返されたかったのだと気づいたのはそれから3年後、うんともすんとも言わなくなった時だ。 あまりに脱出を図るからと四肢に枷と鎖をつけてもなお酷く暴れ、泣き続けるからと何事かをは思案されていた。そしてとある筋からが手に入れたというを少女に齧らせたのだ。あまりのまずさからか毒か何かかと勘違いしたようで、毒が回らぬようにとしばらく静かになり、その隙に石の手枷をつけたことによって酷い脱力感にあらがえぬのか大人しくなった。 少女はいつぞやのコラボと同じくちっとも笑わぬ子であった。 されどそのこともあってかヒルデに対するドイツの偏愛は凄まじく、風邪をひいて声が出なくなったときは全ての予定をキャンセルするような有様だった。まるで二度と同じ失敗を繰り返さないようにとでも言うように神経質なまでに徹底的に管理して 軽く目が開かれ口の端が上がっているような気がした。 「好きなのか?アイスが」 途端にきょとんと目を丸めてこちらを見た。酷く驚いたようだった。そして恥じらうように顔を赤らめて俯いてしまったのだった。 「では、明日も用意させます」 「おがどこにいるか知らないか?」 「いつも通り部屋じゃない?」 息を切らせるグラスにベビーは首を傾げた。グラスは焦っているようだった。 「部屋にいないぞ!」 手に持つ溶けかけのにああ、届けに行こうとしていたのかとベビーは考え、一拍置いて意味を理解する。 「あ、……」 「どうしたグラスそんなに慌てて」  いつも通り笑いながらもどこか不思議そうに首を傾げたへはかしこまりながらも答えていいものかと思案する。と目があったが、すぐに逸らされた。―あんなに青ざめているやつに誰がわざわざ助けを求めるかと内心吐き捨てるが今はそんなことを考えている場合ではない。意を決して、口を開いた。 「わ、実はおが……」 「ん?ヒルデがどうした?」 「おが見当たらず」 「……」  沈黙ファイ、と聞こえた笑い声におそるおそる 「なにごとかと思えば、そんなことか。安心しろ、グラス。ヒルデならおれの部屋にいる」  ほら、と体を横にずらしたためベッドの一部がのぞいた。確かにふくらはぎからつま先までが見える。蒼褪めて見えるほどいやに白い肌に体調でも悪いのだろうかと 「ああ、そうだグラスあとでベビーに後始末を頼んでおいてくれないか  ?誰か処理されたのですか?  いや、ただ普通に掃除をして欲しいだけだ。普通のな 「そういえば昨日ずっと悲鳴が聞こえてたな……変わった趣向だとは思ったが……」  その、次の日奇しくもヒルデは昨日の商売と同じような白のシュミーズドレスを着て現れた。珍しいことだと内心で首を傾げる。滑らかなシルクのドレスに同生地のリボンがあしらわれたデザインは純で、透き通るような美しさがあった。  あわせられた金の首飾りは彼女の瞳と似た輝きを放っていて、彼女の名前のイニシャルをモチーフとした髪飾りと耳飾りはが誕生日に贈ったものだろう。黒のファーコートを億劫そうに直す姿にが喜びそうだと感じた。 「何……?」 「いえ、なんでも」 どこが似ていると思ったのだろうか。白皙の美貌も意志の強い瞳もこちらを何とも思っていないような声もどれほど肌をだしたところで失われることのない気品も。誰にも代替できない唯一のものなのに。似通うとすればの主ただ一人。そのことを確認し、安堵するのだ。 あの方とも違う強張った声 「いった!!ちょっと何すんのよ!!」 「うるさい、邪魔」 「ちょっと、ヒルデ!!」 酷いじゃない!と声を上げるを無視してカツカツと歩いていく 「お」 「……グラ、ス?」 どこか震えた声が自身の名を呼ぶ。それに湧き上がるのはなんであろうか。少し顔を上げのぞいた眦には小さな涙が光っている。それを認識したとたんに顔が強張ったのがわかった。 「……どうされたのです?」 がのためにと収集した品により豪奢な部屋へとなっていた。 著名な画家によって描かれた肖像画、名画。諸国の工芸品。古今東西の書籍 そのどれもが何の役にもたたなかったが。 てんでばらばらな物たちだが上品にまとめられている。 異質に光る金の柱が一つ。が珍しく関心を寄せたからと を伴って現れたのは赤い着物を身に纏ったヒルデだった。 なぜか髪を肩にかからぬほどに切ってはいるが軽く見た感じでは怪我もなく痩せている様子もない。そのことに少し安堵して疑問を抱く。なぜここにきた? 「私、海に入ることにしたの」 「そう……ですか。それをなぜおれに?」 「……ケリをつけようと。ドルに話しに行ったらグラスのところにも行けと……」 もしやはおれの気持ちに気づいていたのではないかと考えて背中に冷たいものが走る。ではなぜ何も言われずに済んだ?何か動きを見せれば処分するつもりだった?たとえ結ばれることになっても問題なかった?それともおれにそんな勇気はないと思われていた? ああ、きっと会うのは最後なのだろう。それだけが頭にあった。

「おれはあなたのことが好きでした」

「……え、は、え?」 徐々に赤く染まっていくの顔を見続ける。 私、あなたの持ってくる氷菓子好きだったわ



あとがき

夢主の闇堕ちIFの夢で近親ありなんてあまりにもなので、なくしました。