ある女海兵の話

第一話

ドジの代償



 ぴーぴーという音が廊下に響く。バサバサという羽音と高い靴音。きゃあきゃあという悲鳴。たなびく白のコートに何ごとかと海たちが振り返る。  初見の人間はぎょっとして、ある程度の階位にいる人間は見慣れたものだと目を逸らした。そして、その音の行き先に気づき慌てて顔を上げ静止する。 「待て!待て待て、待ちたまえ!!!ヒルデ准」  呼び止められた靴音の主─ヒルデはそのことを気にもとめず必死の形相で走り去っていった。 「ああ……」  誰かが声を漏らし、止められなかったことを嘆く。その背を慰めるように叩く手。 「しかたないですよ、ヒルデを止められるわけありません。……いつものことじゃないですか」 「だが……だが……そうは言うがな!」  あの先は七星剣会議だぞ!  中年のとある海兵の悲痛な響きがこだました。

「……なんの騒ぎだ?」  何やら扉の向こうが騒がしいとクロアチアが声を上げた。漏れ聞こえてくるのは女の声。その声の主を知っているセンパイは額に手を置きまたか、とため息をついた。  つるが溜め息をこぼす。仕方のない子だね、と言いたげに目尻を下げてぼやいた。 「まったくあの子は何やってんだい」 「いつものやつだろう」  そんな会話を交わしていれば勢いよく扉が開かれた。白のスラックスに包まれた長い脚が入り隙間に全身をするりと入り込ませたのは白のコートを羽織る2mを越した長身の女だ。騒ぎを起こしているであろうと見当はつけていたが、さすがに入ってくるとは思っておらずセンパイは虚を突かれた気持ちになる。  集まっていた七星剣の面々も慌ただしく入ってきた女に何ごとかと眉をひそめた。 焦った様子の女によってバンッと乱雑に閉じられた扉から何かがぶつかる音がする。バタバタ、バタバタと。何かがぶつかり、落ちる音とともに聞こえるのは高い何かの鳴き声。女が必死に扉を押さえて一分にも満たぬ時が経った頃音が止んだ。そのことに安心したようにくずおれる。しゃがみ込んだ女が荒くなっていた呼吸を整えふと顔を上げた。やっと室内の様子を視界に入れた。  居並ぶ面々に唖然とした表情は瞬く間に絶望へと変わる。疲れ切り伏せられていた眼差しは見開かれサァァと顔から血の気が引いていった。  その様子を見て、全ての兵達のトップに君臨する男──元師、センパイが眦をつり上げた。 「ヒルデ、何を慌てている!」 「だって、だって、センパイさん!!鳥が、忌々しい鳥が追いかけてきたんですよ!」  ヒルデと呼ばれた女は幼い頃から鳥に気をつけろと言われて育った。刷り込まれた鳥への嫌悪は薄れることなく年々増すばかり。にも関わらずバカみたいなドジによって巣に頭をぶつけ追いかけまわされることになったのである。そんな悪夢に見舞われたのだと主張しても歴戦の海賊たちの視線はこいつ鳥にしっぽ巻いて逃げたのか、海兵なのにとどんどん冷たくなっていく。  そのことに気づいたのか言い訳するように捲し立てるヒルデの勢いはどんどんしぼんでいった。  円卓に並ぶ七星剣の一人、クロンが口をふかしていた葉巻を口から離し嘲笑の滲む声音で皆の言葉を代弁した。 「海軍本部の准殿は鳥にすら負けるのか」 「うぐっ……」 「……ヒルデ准」  言葉に詰まり目に見えて怯んだヒルデを信じ難い気持ちで見つめたセンパイはため息ととともに名を呼んだ。  ように跳ね上がり 「はっ!申し訳ありません!センパイさん。直ちに退出させていただきます!!」 「お前、名は?」 「わ、たしは……」  震える唇が型どろうとした瞬間、鋭い声が飛んできた。 「准!!早く部屋へ戻りなさい」 「……はっ、ですが身体が制御できません……!!細い……なんだこれ?硬い何かが絡まっています!」  戸惑ったような半ば悲鳴じみた声にセンパイは眉を吊り上げて声を上げた。 「ドイ!いい加減に離せ」  怒りの滲む声音にハイハイと 「ヒルデ、お前ももう会議中に入るんじゃないよ」 「はい、以後気をつけます……」 「後で部屋に来なさい」 「はっ、申し訳ありませんでした」 「まあ、腕はたつ……。ドジなのが玉に瑕だがな」 「玉に瑕どころじゃねェだろ、ありゃ」  クロアチアが声に呆れを滲ませる。それも仕方のないことだろう、威厳のあってしかるべき海の将校クラスである准が世界直属とは言え賊に弱みと言っても過言でない有り様を見せ、あまつさえにまるで頼るように飛びつき視点を変えればまるで抱きついたかのような体勢を取ったのだから。かといってクロアチアにそれを揶揄する気も、それで揺さぶる気もまだないのかそれ以上言い募ることはなく、先ほどの言葉のみ告げると扉にやっていた視線をセンパイへ向け、退屈そうに会議の進行を促した。  ふと、何やら気になってクロアチアは視線を丸テーブルの一つ挟んで横の席に視線を走らす。その先では悪趣味なピンクのファーコートを背負った男が行儀悪く  ヒルデが出ていったきり黙りこくっていたドレスの口元に笑みはなかった。 「センパイさん〜!!先ほどは、先ほどはほんっとうにありませんでした」 「もういい。わざとではないのはわかっている。だがあまりひやひやさせるな、ドイツにたときは肝が冷えたわ。なんのために七星剣会議中休憩にしていたと思うているんだ」 「申し訳ないです……」  ヒルデ准。現在16の彼女はセンパイの副官を務めており、准の地位ではあるが本来七星剣会議に同行してもおかしくない立場だ。しかし海賊嫌いである彼女を慮(おもんばか)って書類仕事を与え、それが済み次第七星剣たちが帰るまで休憩を与えていたのだ。職務に私情を挟むなと言えばそれまでだが彼女がまだ年若い身の上で元の副官についているのにはおおいにセンパイの私情が挟まっているので今更なのである。センパイにとってヒルデは亡き義息子の遺した唯一の孫であり蝶よ花よと育てていたのだ。だからといって贔屓などはしないが海であるにしても成人年齢に達するまでくらい目の届く場所にいてほしいということでヒルデが大会になったタイミングで副官とし、手元に置いたのだ。亡くなった義理の息子と同じことを起こさぬようにと。そうは言ってもここまでの地位に登り詰めたのだ。その過程で収めた功績の裏に危険が潜んでいたことは大いに知っていた。だから週に一度海の討伐にでかける姿を必要以上に心配することはない。だが七星剣はいけない。あの男がいるのだから。  センパイは溜め息をついた。 「海にあまり関わるなよ、特にドイにはな」 「はっ!勿論です。ですが何故……?」 「……海のクズと関わるなど百害あって一利なしだろう」 「はい」  答えになっていない言葉にヒルデは従順に頷いた。祖父の言葉はいつも正しくてヒルデの指標であったから、それを疑うことなどなかった。 「でも何で最近本部で行われているんですか?敵に手の内を明かすようなものでは?」 「普段使っている部屋が改修工事中なんだ……一応、七星剣は敵ではない。忘れるな」 「建前みたいなもんじゃないですか!」 「何の御用で?」 「つれねェな、可愛い顔が台無しだ。さっきは熱烈に飛び込んできたじゃねェか」 「申し訳ありませんが、海のクズとは関わるなと命が下っていますので」 「言うじゃねェか……下したのはセンパイか?」 「……なぜそう思われるので?」 「聞いたのさ、お前があいつの秘蔵っ子だと」 「……そんなんじゃありません。私は、ただ……」  ヒルデはドレスの言葉を否定し、言葉に詰まった。なにごとかを考え暫し逡巡したあとかぶりを振る。 「私はただの副官ですから」 「そのわりには甘いようだが? おれなら部下があの場であんな失態をおかしたらすぐに始末するさ」  特にセンパイはその手のことに厳しいと思っていたがと探るように見つめてくる眼差しに耐えきれなくなったようでヒルデは目を逸らす。苦々し気に歪んだ瞳にドレスは既視感を覚えた。 「そろそろ出て下さりませんか? さきほどの失態に関しましては本当に申し訳なく思っております。処分をお望みでしたらお受けしますが一度軍本部を通していただきませんと」 「申し訳なく思っているというならそれ相応の誠意の籠った対応ってものがあるんじゃねェのか?」  ヒルデはついにドレスを睨んだ。苛立ちを感じつつあったのだ。 「処分をお望みなのはわかりましたが、機密書類のある一海兵の部屋への無断侵入やへの処分命令は七星剣の権限を越えているように思います。はっきり言って越権行為なのでは? 海兵へ脅迫なさるおつもりなのでしょうか?」  もしそうだと言うのならばこちらも対応を改めます、と告げればドレスの表情に浮かんでいた笑みが消え、真顔になっていた。そのことに背筋が凍るような思いがしてヒルデは怖気づきたくなる。しかし、そんな真似をしてはヒルデが引いてはヒルデに准という地位を与えた海軍が舐められてしまう。私一人のせいでそのようなこと、ぜったいに避けねばと顔を逸らすことなく睨み続けた。  しばしの睨みあいの末、哄笑がドレスの口から漏れてくる。そしてサングラス越しに目をおさえ天を仰ぐ姿にそっと肩を撫で下す。しかしその安堵は一時の物であった。こちらに顔を戻した男の額にはぴっきりと切れないかと不安になるほどくっきりと、青筋が浮かんでいた。 「……っ!」 「フファミ、随分と面白いことを言いやがる……!なら対応を変えられなくしてやろうか?」  眼前に掲げられポキポキと関節が鳴らされる指。──サァと顔から血の気が引いていく。蒼白に染まったヒルデの顔にファミと笑う姿にまるで悪魔だ、と奥歯を嚙みしめる。なんらかの、おそらく糸の能力者。とはいえ、手の内を全くもって把握できていないし曲がりなりにも七星剣だ、今の自分では太刀打ちできない。そこまで考えが回ったヒルデは─。 「お、じいさま……」  自分の祖父に助けを求めようとしたのである。口から飛び出た言葉にドレスは「ん?」と呟きながら嘲笑する。死を前に母親を呼ぶ海を見たときと同じように。それと現在はなんら状況が変わりないためおかしなことではないが。  その姿に自身の現状に猛烈に恥を覚えたヒルデは懐に手を伸ばす。 「やはり、お祖父様は正しい……!と関わるなど百害あって一利なしなのよ」  そう告げ、懐の銃に指をかけたそのとき、腕が動かなくなる。ぞわりと全身の毛穴が開き、嫌な予感に冷や汗が背を伝う。 「……っ!」  無理矢理力を込めれば細い何かがシャツを裂き、肌にめり込み、破る。ぷつりぷつりと血の珠が浮かんだ腕を見つめて顔をしかめた。会議室での感覚と同じだ。では先ほど無理矢理暴れていれば全身を動かせなかったことからしてあちこちに裂傷を負ったのだろうか。そのことにゾッとしながらもドレスへ文句を言う。もうここまで来たら何を言っても同じ。海兵へ手を出したあっちが悪いのになぜ遠慮せねばならないのか。  震える唇を無理やり動かして恐怖を悟られぬようにと睨みつけながら告げた。 「拘束を解いてもらえますか? まったくシャツがぼろぼろです。お気に入りだったんです。弁償してくれますよね?」 「お前が暴れなければよかった話だろうが」  今言うことがそれかとどこか呆れた声音に張り詰めていた空気が変わったことへホッとする。とはいえ気が抜けるわけでもないが。それにほんとうに悲惨なありさまなのだ。もともとピンク色だったシャツの袖は切り刻まれており、肌が露出している。まだ腕に纏わっている部分には血が滲んでいた。 「ったくお前らは勝手だなァ?七星剣制度を望んだのはお前ら海軍だろうが」 「あなたは取引に応じて七星剣になり、特権を認められた。ならばそれを破ることなど認められません」  だから解けと言えばハイハイと解かれた。その軽い調子にヒルデは呆気にとられる。    ピンクに覆われた背に照準を合わせてやろうかと思ったがやめた。次ほんとうに怒りを買えばさすがにどうなるかわかったものではないので。嵐のような男であったと苦々しい気持ちでヒルデはその後ろ姿を見つめた。  とりあえず、センパイさんのところに行って今日はもう上がらせてもらおう。そして愚痴ろう。  鼻先をくすぐるいぐさの香りでヒルデは目が覚めた。前日にしこたま呑んだ酒が残っているようで、二日酔いに痛む頭を抱えながら重たい身体を押し上げる。 半円型の柘植(つげ)の櫛を手に取る。やわらかな木肌が指に触れ、髪を梳かす。 「お祖父様、おはよう」 「おお、目が覚めたのか。おはよう、ヒルデ」  ゆったりと薫り高い煎茶を口から離しながら自分を見つめる祖父の目はしっかりとしている。整えられた髪や髭からしてだいぶ前に起きていたことがわかった。おそらくいつも通りの時間に目覚め普段と同じ朝を送っていたのだろう。  ヒルデに付き合い遅くまで呑んでいたと言うのにしゃきしゃきとした祖父の様子にヒルデは肩を落とした。 「ごめん、遅くまで寝ちゃって……もうお昼にする?」 「そうだな……。仕方あるまい昨日はニ時まで呑んでたのだから」  慰めるような祖父の声音に更に肩を落とせば祖父の苦笑する音が聞こえた。続いた言葉にあれ、そんな遅くまで呑んでいたっけと訝しむ。過去を手繰るべく記憶を探るが呑み始めてしばらくした辺りから曖昧になり思い出せない。 「何の御用でしょうか?」  突きつけた剣をひらりと避けて男は入ってきた。七星剣へ武器を使うことは本来認められていないが前回あんな目にあったのである。これぐらいは許されてしかるべきだろう。 「そういきり立つな、今回は手荒なことするつもりはねェよ」 「……では何の御用で?」  訝しむ私に男はフリルフッと特徴的な笑いをする。 「お前、センパイの孫なんだってなァ?」 「……ど、こで、いえ、何を仰るんです?」 「誤魔化すのか? 今さらだろう! フフフお前のその顔を見たら一目瞭然だ」 「この前の女海兵」 その言葉にセンは動きを止めた。刺すような冷たい眼差しがドイツを射る。それにこわいこわいと余裕ぶって返すが1点集中で浴びせられた気配に首筋に冷や汗が浮かぶ。 「流石にてめぇの……元帥殿の孫娘にゃ手を出さねェよ」 「それはよかった。もしもそんなことがあれば殺さなくてはならんところだったからな」 にっこりと笑う瞳に光はなかった。 「これはこれは鳥に負けていた准殿ではないか」 「……先日は、お恥ずかしいところを」 「センパイの副官らしいな?」 「ええ、まあ」 精々竜巻を起こしたり風でなぎ倒したり浮かせて叩きつけるのが精々である。   「じゃあ私近くの基地かガードさんのもとで雑用やります!ガードさんに師事します!!」 「よし、士官学校に入ろうか」  勢いでガードのもとで雑用をすると告げ、はたとそれはなんとも良い考えなのではないかと考えた。そのことにすぐさま気づいたセンパイが覆い被さるように叫んだ。なぜ可愛い孫をガードのもとにやらんといかんのだ。死ぬ気か、と呻くセンパイに対して私は許可が出たことが嬉しくてにこにこ微笑む。  その代わり、条件がある。そう続いた言葉に私は深く考えもせず一も二もなく頷いた。 元を目されている海軍大将の鍾愛する孫娘として鳴り物入りで入軍した 「ヒルデは私が鍛えるから心配いらん!むしろお前とともにいて脳筋が移ったら大変じゃ、ほらしっしっ!!」 「じゃがお主甘やかすじゃろ!」 「仮にそうだとしてお主に頼ることはないわ!!お前に任せるならおつるちゃんに任せる!」 「お祖父様〜」 「ん〜?なんじゃ?どーした?」  一転して甘くなった声にほらやっぱりと呆れた目で見つめる。 「私ガードさんに教えを乞うてみたいです!」  きらきらと輝く純粋たる瞳にセンパイは反射的に怯んだ。――孫の言うことはできうる限り叶えてやりたい。そう決意したのは何年前であったろうか。 「お前さんも兵隊になりたいなんて変わってるねェ。元師の孫娘なんて深窓の令嬢みたく蝶よ花よと屋敷で育てられそうなものを」 「でもガードさんのお孫さんはジャングルにいると聞きました。それに私とお祖父様は血が繋がっていませんし……おつるさんのお孫さんの孔雀ちゃんも兵隊になったそうですよ」 「ガードさんに関してはだいぶ例外だと思うけど、んーまあいいか」 「お前のせいじゃぞ!ガード!!」  齢十七で軍隊本部のにまでなったその実力は本物だ。 「何飲んでんだ?」 「梅の炭酸割りです」 「酒か?」 「違います。……あげませんよ」 「ならもらおうか」 「なんでそうなるんです!? わっ取らないでください」 「随分と暇なんですね? お仕事しなくていいんですか?」 「いいのか?仕事をして」  海兵としてその発言はどうなのかという視線に私は酷く衝撃を受ける。 「……た、確かに!」  海の興行を応援するような発言をしてしまうとは。不覚である。     「もう私の部屋で仕事するか?」 「えープライベート空間欲しいです!」 「なら家にいればいいじゃないか」 「わかりました。ヒルデ准、ただちにデスクを持ってまいります!」 と二人だけの執務室にカリカリとペンの音が響く。キュッと最後の一文字にペンを滑らせ締める。 お祖父様〜お仕事終わりましたぁ 甘えた声が喉からこぼれた。言いながらペンの蓋をしめながら立ち上がり、センパイの前に立つ。 追加のお仕事くださーいと手を伸ばせば何も持っていない手が私の頭上へ伸びる。意図を察してそっと屈む。 伸びた手は私の頭を優しく撫でた。 おつかれ、ヒルデ。少し休め でも…… 午後から外で任務だろう。午後に向けて英気を養え けどお祖父様……そろそろ七星剣会議では? 資料はできあがっているのだろう? もちろんです 当然だと頷けば、ならいいだろうと言われ反論できずにしぶしぶと休憩を取ることになった。 目を離した隙に何かあれば困るということでまだセンパイがいる最中今日の会議に   「任務に、指名……ですか」 「ああ、忌々しいことにな」 「……私は、構いません」 「ヒルデ! ちゃんと考えたのか」 「無論です。ですが、任務への私情は厳禁……そうでしょう?」 「それはそう、だが……」 「そちらの任務お受けします」 「……わかった。後ほど、おって詳細を連絡する」 「はっ!」  多くはもともとセンパイの副官になる前、同じ部隊だった面子だ。副官になった以後も、任務の際などに任される部隊だった。 だから 豪勢な食事がしたいならレストランにでも行ったらいかが? かちゃかちゃとカトラリーを鳴らしながら ああ、でもやっぱり駄目だわ。一般の方が怯えてしまう……、どうしましょう。デリバリー……もきっとだめね 「何してんの?」 不機嫌そうな声音が耳を貫き顔を上げる。こちらを無感動に見つめるヒルデに短気なことだと笑えば気味が悪いと言いたげに表情をしかめた。それにさらに笑いを強めるとヒルデは嘆息して歩き出す。が、つるんと足を滑らせた。予期していた動作にするりと糸を走らす。またも感じる既視感は今さらだ。 ずっと感じている。この女と出会ってからずっと。既視感だけを抱いて、その正体が知りたくてなんとか関わりをもとうとするが、その既視感の正体を知ってはならないと、頭のどこかで警鐘が鳴り響いている。 「ち、ちうえ……?」 「は……?」 「あ、ごめ……すみません、あなたが、髪を下ろしているものですから、だから私……」 「私が行って参ります」 フェザーコートを振り払うように懐をすり抜けて1キロほど離れた先にある海船に  逆立ちをし、やたら長い脚を ちなみにこの時のことを理由に1年近く強請られることとなるのたが、それはまた別の話である。



ヒルデナンの呼び方

パパ→父上
じぃじ→お祖父様