ありえぬ邂逅 / 第一章
全身黒い服を来た外国人がなにやら話し込んでいた。
険しい表情とその暗い服装からしてどうもただの観光客には見えなかった。
黒髪に黒いスーツ黒いシャツに黒いネクタイを来た二人の男とそのリーダー格なのだろう透き通るようなプラチナブロンドをオールバックに固めて黒いシャツに細いグレーのストライプが入ったこれまた黒いベストを羽織っている。ズボンももちろん黒。胸元では上質なシルクの黒いネクタイがしめられ光沢を放っていていた。
聞こえてくるのは英語だ。ということは、英語を公用語とする国の人物だろうか。
注意深く聞く。そうしたら聞こえてくるのは英語は英語でもイギリス英語……つまりはコナンの愛してやまないシャーロック・ホームズの生まれた地、英国(イギリス)の人間だろうか。何やら人を捜しているらしい。そして聞こえるのはThat person……つまりはあのお方。
コナンはこの英国人三人組をどうも怪しいと思い、それと同時に微かな恐怖を抱く。そばに灰原がいれば相談できたが残念ながら本日彼女は博士と一緒にでかけている。
コナンは意を決して一度深呼吸をする。そして……駆け出した。
「お兄さん達!」
コナンは三人組の直ぐ側まで駆け寄ると無邪気な子供の笑顔で話しかけた。
「誰か捜しているの?」
そう尋ねると男達の間に動揺が走った。それと共にあからさまに眉をひそめ不機嫌を主張した。どう対応するか悩んでいるようだった。
『translation(_翻訳)』、その言葉が聞こえコナン咄嗟には「I can speak English.(_僕、英語話せるよ)」と告げた。男達はさてどうしようかと視線を交わす。コナンは追撃した。
「Are you looking for someone?(_誰か探しているの?)」
「Who are you? First tell me your name.(_お前は誰だ?まず名を名乗れ)」
金髪の男が応えた。流暢なクィーンズイングリッシュにコナンは内心舌を巻く。上流階級の出だと一瞬でわかるほど美しい発音だった。
「My name is Conan Edogawa.I am detective.」
__江戸川コナン、探偵さ。お馴染みの自己紹介に黒髪の男のうち背の低い方が表情を歪め声を張るようにした。
「Are you making fun of me!?(_お前は僕をバカにしているのか!?)」
金髪の男が嗜めるように声をあげた。
「Be quiet,Goil.Making a fuss won't solve anything.……If we don't find her, we'll be the ones to be punished.Do you want to die?(_黙れ、ゴイル。騒いでも何も解決しない。……もし見つけられなければ僕らは処罰を受けることになる。お前は死にたいのか?)」
途中まで嫌みなほどゆったりとしていた口調はどんどんと早口になり最後は捲し立てるようだった。焦りが滲んだ声音は怒りを孕んでいてコナンはdieという言葉に驚いた。そしてやはりか…と表情を険しくする。
「Wait a minute, no way...Are you sane? Doraco!(_ちょっと待て、まさか……正気かドラコ!)」
もう一人の黒髪の男の言葉を無視して、冷たい瞳を金髪の男はコナンに向けてきた。心の像が凍てつくようなアイスグレーの瞳を。
彼は何やらささやいた。自身のポケットに右手を入れて。次に彼の口から放たれたのは日本語だった。
「お前は探偵だといったな?人捜しもできるのか?」
「う、うん」
鋭い瞳にたじろぎながらコナンはこたえた。一応と心のなかで唱えながら。
「ドラコ……やっぱりやめた方が」
「黙れと言っているだろう、ゴイル!目を離した結果姉上が行方知れずだと知ればあのお方は僕らを殺す!死にたくなければ姉上を見つけだすしかないんだ─!」
金髪の男の話す日本語は十分と高慢な言い方だった。姉上というどこか古い呼称にコナンはまたびっくりするがアニメなどで日本語を習得したのだろうかとそのことについてはてきとうに考えた。コナンは日本語でのあのお方という言葉にやはりこいつらは組織の人間かと考えた。それと同時にこいつらがこんなに慌てるということはこのドラコと呼ばれる男の姉はもしや組織の重要人物なのではと思った。
「どうしたのコナンくん?」
そんなときコナンに声がかかった。
「蘭!……姉ちゃん…!」
コナンは焦った。おおいに焦った。もしこいつらが黒の組織の人間なら蘭と接触させるのはまずい。
「蘭姉ちゃん、この人たち人探しをしているんだって」
だがなによりも下手なことを口走るのがもっともまずいとコナンは考えた。
「あっ、そうだったんだ」
蘭は金髪の男の荒げた声を聞いたからかコナンが絡まれていると思ったらしくホッとした様子だった。
姉を見つけて欲しい、と男は告げた。
「僕の名はドラコ。ドラコ・マルフォイ。そしてこいつはクラッブでこっちはゴイル」
珍しい名前だ。
「僕らは……イギリスから旅行に来たんだ。そして姉がお手洗いにいくと立ち上がって……もちろんついていくわけにはいかないだろう?そうしたら……」
「どこかに行ってしまった?」
「……ああ」
「姉はあまりに箱入りだから心配なんだ」と告げるドラコにおっちゃんは半目になった。この男の姉ということはそこそこ大人だと考えたらしかった。
「もちろん、金ならいくらでも出す……前金はこれぐらいで足りるか?」
ベシッという音と共に封筒が机の上にたたきつけられた。分厚い封筒だった。1センチほどの厚さであった。たとえ全て1000円札だとしてもかなりの額になる。
「こ、これは……」
おっちゃんは目をドルマークにして、蘭も思わずといった様子で体を前のめりにした。直ぐに恥ずかしそうに体を埋めたが。
「えー、ごほん。……何かお写真などはありますか?」
急にまじめくさっておっちゃんは言った。
「ああ、」
男の見せてきた写真にコナンは息を飲んだ。──写真がうごいている…!
「これはすげぇな。どうなってんだ?」
「僕らの一族と関わりのある者の発明でね」
男はどうでもよさそうに告げた。コナンはその発言を訝しんだ。しかし、蘭もおっちゃんも疑っては居ないようだった。
「ほぇー」とおっちゃんは感心したように告げ、そして微笑む写真の女に目を止めた。
「これがお姉さんで?」
「ああ」
「ほぇーすげえ、美人……やっべぇな。だが、それにしては随分と──」
似ていないとコナンは思った。黒髪と赤い瞳はプラチナブロンドに青い瞳の家族のなかで浮いていた。
「よく言われる」
不快げに鼻を鳴らして男は言った。
「僕らの家庭事情は少々難解でしてね……ああ、そうだ。姉のことですが、姉はいつも白い服を着ている」
「白い服……?」
確かにこの写真も驚くほど白い服を着ていた。他の家族はみな真っ黒の服を着ているというのに。しかも古風なデザインだ。全員だが。
「ええ、おそらくローブを羽織っているかと。名前は……そうですねミッシェリーナ・マルフォイです。しかし……」
「しかし?」
「もしや偽名を使っているかも……と思いましてね」
「その場合の名前に心当たりなどは?」
「ふむ、ポッターや……ゴーント、スリザリンなどだろうか?」
「にしても、この時代にローブって……何の仮装だ?こりゃ」
「どうしたんです?」
「ええっと……おじさんが依頼を受けて……」
「依頼?」
「誰だ?」
「あ、えっとおじさんの弟子!一応安室さんにも聞いておく?情報通なんだ」
「そうか、じゃあ頼む……口を噤むように言っておけよ」
どうでもよさそうに頷いた。
「は、はーい」
「ねーねー安室さん。この女の人しらないかなー?ミッシェリーナさんっていうらしくて……」
「すまないね、コナン君。僕は見たことがないかな……もし見かけたらコナン君に連絡しますねー!」
安室さんは心底申し訳なく思っているように眉を下げた。後半はドラコに向かって声を張っていた。
「もしもし?安室さん?」
「やあ、コナン君。先ほどあった人はまだそばにいるかい?」
「うん、いるけど……」
「もしかしたらミッシェリーナさんかもしれない人が来てね……黒髪で紅い瞳の……ミッシェリーナ・リドルさんだと名乗ったそうだけど……」
「え?うん!わかった」
偽名候補としてあげられたのとまったく無関係な名字に違和感を感じたがミッシェリーナという名前は珍しい。きっと本人だろうと思いドラコに声をかける。
「ミッシェリーナさん見つかったかもって!」
ポアロに足を踏み入れ見渡すと奥のテーブルに白いフリルとリボンが見えた。
「姉上!」
ドラコがかけだす。自身もそれに続いた。
「まあ!ドラコ」
それまで澄ました表情でティーカップに口付けていた女の人は顔を華やげた。
そして立ち上がりドラコの頬を両手でつかむ。
「どこに行っていたの?心配したじゃない」
ドラコは顔を赤らめた。
「心配したのは僕たちの方ですよ…!お手洗いに行ったきり帰ってこないで……クラッブとゴイルと捜しても見つからない……勝手な行動は慎んでください!明日にはあの方が来るんですよ!」
その言葉に反射的にコナンの肩が跳ねた。それを見て安室さんがコナンの耳元へ口を寄せ囁く。
「大丈夫だよ、コナン君。少なくとも僕は彼らを組織で見たことがない」
その言葉にそっと胸を撫で下ろした。
「あなたが弟をここに連れてきてくださったの?」
そう言って彼女は微笑んだ。そして唐突に目を見張ったかと思えば顔をみるみるうちにかがやかせていく。その表情にドラコは呆然としていた。
「ねえ、あなた!江戸川コナン君よね!」
「え、は、うん」
「I wanted meet you!」
「へ」
「ああ、違った……わたくしね、あなたにずっと会ってみたかったのよ。お会いできて嬉しいわ」
「何かあったら私の名前を呼んでちょうだい。何があってもかけつけるわ……私の名はミッシェリーナ・ローゼリア・ポッター」
神秘とは / 第二章
咄嗟に告げた。まるで何かの呪文のように。「助けて、ミッシェリーナ・ローゼリア・ポッター……さん!」
しかしその言葉にかかわらず銃弾はとんでくる。やはり、無意味か。自分は何を期待したんだろう。そして真正面の銃口から飛んできて、もうだめだ──と思ったときに声が聞こえた。
「Protego Maxima」
澄んだ綺麗な声だった。 眼前に青白い光を放つ膜のようなものがあらわれ銃弾を柔らかく吸収しそして落としていく。
「大丈夫!?コナン君!」
「え、うん……お姉さん、何やったの!?」
「ここにあなたの味方はいる?」
「い、ないけど」
「そう、ねえ、コナン君」
「なっなに?」
「今から見ること全て秘密にしてちょうだいね」
そういって彼女は白い棒をふるいその先から赤い閃光を打ち出す。
コナンに影が迫る。驚いた表情でとっさに彼女は「Crucio!」と叫んだ。コナンには意味がわからなかったがろくでもないことをしたことだけがわかった。なぜなら男がけたたましい叫び声をあげたからだ。
「ぐっぎゃあぁぁぁぁ!やめろ!やめてくれ、たすけてくれ、いたい、いたい、いたいイタイイタイィぃ」
コナンはとっさに耳をおおった。そしてその叫び声に顔をしかめていたミッシェリーナはコナンが耳をおおったことを視認すると「Avada Kedavra」と呟いた。白い棒から緑の光が飛び出て男の胸を貫く。いやな予感がした。どうしようもなくいやな予感が。男の声は消えパタンと倒れピクリとも動かなくなった。何らかの手段で黙らせたのだろうか?そもそも先ほどから彼女は何をしているのだ?もしやこれは魔法?いやいやそんなまさか。
男の倒れたおとがいやに反響していてどうしても見たくなった。今男がどんな様子か。そう思って近づこうとしたときにミッシェリーナが制止した。
「やめておきなさい、コナン君。子供の見るものじゃなくってよ」
その言葉にいやな予感があたっていることをコナンは知った。
「ねえ、お姉さん」
「?何かしら?」
「いったい、何をしたの?」
「あら、おかしなことをいうわね」
ころころと音をたてて女は嗤う。
「何をやったの!お姉さん!!」
喉が痛い。コナンは絶叫したのだった。信じたくなかった。理解したくなかった。でも、コナンの好奇心は人一倍で……コナンは死体にまで歩みを進めてしまった。
死体の指先は固く肌はいやに白かった。血のとおっていないように見えるほど青白い指先は汚れ泥だらけだ。爪には血がつまっていてふと腕に視線をやるとまだ固まる前の血液が腕から流れていた。先ほどの絶叫の際にかきむしったのだろうと推察できた。
瞳は開きっぱなしで虚ろだった。白目は濁っていて半開きの口のまわりは少し泡で汚れていた。紛れもない死体だった。
男は死んでいた。
思わずコナンは後退りたたらを踏んでしゃがみこんでしまう。
じゃあつまりお姉さんはミッシェリーナは……そこまで考えが及んだときに彼女の棒がまた振られた。
「Incendio」
死体に火柱があがった。青白い炎であった。一瞬だった。コナンが声をあげる前に一瞬で沈火した。
後に残ったのは焦げた骨と灰だけであった。今の一瞬でこれほどまでに燃やすとはいったいどれ程の威力の炎なのかとコナンはおそれおののいた。
足が……震える。
自分のせいなのだろうか。自分が呼んだから……自分が呼んでしまったから……
コナンは声が震えているのを自覚していながらも無理矢理に声を絞り出した。
「お姉さんは誰?お姉さんは何?お姉さんはいったい何をしたの!?」
ミッシェリーナはつかの間呆気にとられた。だがすぐにきょとんとした表情はひっこめられ穏やかな笑みを浮かべる。彼女の唇に引かれた紅がいやに毒々しかった。
「私はミッシェリーナ・ローゼリア・ポッター。ローゼリア・ポッターと闇の帝王と呼ばれているトム・リドルという男の間に生まれマルフォイ家で育てられた女……スリザリンの末裔」
彼女の瞳はまるで蛇のようだった。
「わたくしは魔女よ、コナン君」
弧を描いた唇は妖しさを纏っていた。恐ろしさを纏っていた。コナンに畏れを抱かせた。
美しき犯罪者である母の旧友のとあるハリウッド女優を思い浮かばせるその狂気的なまでの美貌に潜む毒はきっと蜜のように甘いのだろうと思った。
そしてあの女優が持っておらず彼女が持っているのは若く無垢で無邪気で傲慢ゆえの高潔さ。
「魔女って……そんなわけ……」
「あら?じゃあ今のはなんだと思うの?」
「そ、れは……」
「ねえ、江戸川コナン君。いったいあなたは何をしたら信じてくださる?水を出したらいい?それとも火?明かり?花?それとも……蛇?」
彼女の言葉通りにくるくると回される白い棒から次々と出てくるモノたちにコナンは叫びそうになった。
「それともなあに?心を覗けば信じる?縛ったら?黙らせたら?操ったら?それともさっきの男と同じように拷問したら?……さすがに子供には可哀想ね」
ああ、やっぱり。先ほどの苦痛に満ちた叫び声は拷問ゆえか。どこかで聞いたことがあると思った。
コナンが現実逃避をしたくて思考を巡らせ始めたとき「そうだわ!」とミッシェリーナは両手をたたいた。まるで名案でも閃いた様だった。
「あぁ、可哀想なコナン君。傷だらけね。わたくしが治してさしあげる」
そういって彼女はコナンの下へしゃがみコナンのその腕をとり棒をコナンの腕にあてる。ちょうどそこは切れて血がしたたっていた。
コナンはゾッとした。恐ろしい魔法を操る魔女が自分に魔法をかけようとしている。よく分からない摩訶不思議な未知の領域。これほど恐ろしいことがあるだろうかとすらコナンは思った。
コナンは声を絞った。
「…そ、れは……何?」
白い棒を指でさすときょとんと目をまたたかせた。そんなことを聞かれるとは思わなかったように。まるで常識を知らぬものを見る目だった。
スマホを知らない人間をみたような靴がわからない人間をみたような。そんな眼差し。
コナンはいたたまれなくなって咄嗟に目をそらす。だがすぐに白い棒をみた。よく見れば木製だ。つまりはただの木の棒?そんなものであんなことをしていたのか?というよりあんなことはこの棒によってできていたのか?この棒がなければ何もできない?
ミッシェリーナは魔女といった。魔女っておとぎ話に出てくるような薬草を大釜で煮詰めて怪しい薬を作るあの?だが魔女はたいてい薬師や人里離れて何をしているかわからないだけの人間だときく。
呪い師だってただ祈りそれが何らかの形で当たればこれが祈りの結果なのだと声高らかに叫ぶだけの存在ではないのか?
(魔女は……おとぎ話の存在ではないの?)
コナンはどうしようもなくききたくなった。
疑問で頭を埋め尽くすコナンに対してミッシェリーナはにこりと微笑んだ。だめな生徒を導く教師のように。出来の悪い息子を持つ母のように穏やかで諭すような声でコナンに語りかける。
「これは杖よ、コナン君。私達魔法使いは杖を媒体にして魔法を使う。……アフリカの魔法学校では使わないで授業をしているみたいだけど」
コナンは俯いていた頭を弾くようにあげた。
「魔法学校があるの!?」
「あたりまえでしょう?学校がなければどこで学ぶというの。わたくしはそういう一族だけどマグル生まれは学びようがないじゃない!」
「一族……?マグル?」
くすくすと彼女は笑った。
「いいわ、なんでも教えてあげる。たくさん……ね?わからないこと全てこたえてあげる」
そういって微笑むミッシェリーナにコナンはなぜ自身がこれほどミッシェリーナに気に入られているのかと疑問に思ったがだからといって何も言わずに頷いた。
「さあ、それではあなたの傷を癒さなくては」
ぎくり、とコナンは強張った。話は逸れていたのに。
でも、コナンの予想に反して恐ろしいことは何一つとして起きなかった。歌うように穏やかな声音で。
「Episkey」と「Scourgify」と彼女が唱えると、傷はまたたくまにきれいさっぱりと治り、体についていた泥や黒ずみや血はみるみるうちにきれいになり何もなかったかのようだった。何なら事件が起こる前よりも綺麗である。
「ねえ、コナン君何かいい店はないかしら?」
「窓が開けられる個室はありますか?」
「ああ、来たわね」
「え?」
彼女の視線の先にあるのは窓である。自身も覗くと目がくらんだ。太陽の眩しい光が反射して目につんざくように入ったのだ。
コナンは何度か目をぱちぱちと瞬かせば十何回目でやっと目は慣れ視界の端で点滅していた紫や黄色の光も完全に消えた。
慣れてきた目を薄めながら再度のぞく。目を凝らせば何やら輝いているものが近づいてくるのがわかった。
どこからかほぉーほぉーという音がする。空耳だろうか、と
永遠なるパペット / 第三章
「持病の関係であまり動けないらしくて、その薬の開発を組織と協力しているのよ」「どんな方です?」
「人形よ、まだまだ子供のね。従順に頷くだけのマリオネット。でも…鋭い子だとおもうわ」 「気をつけなさい」と艶かしく微笑んだベルモットに対して自身もわざとらしく微笑む。 「肝に命じておきます」 満足げに微笑んだベルモットは自身の横を通りすぎる。 「ああ、そうそう」 3メートルほど歩いたときにベルモットは立ち止まり、こちらを振り向いてきた。言い残したことがあるようだった。 「彼女、イギリス人だけど日本語話せるらしいから。日本語で話しかけてあげて」 「……」
沈黙が続いた。彼女は素知らぬ顔で自身とは逆側をぼーっと見つめていた。それはポアロで会い弟を前に困っていた様子とは全くもって別物であった。
「本日の食事ですが何かご希望はありますでしょうか?」
その言葉にふとこちらを見る。伽藍堂な瞳に射貫かれる。
「いえ、特には」
「では……苦手なものや食べられないものはありますか?」
「ございませんわ、お気になさらず」
「フレンチのレストランを予約しておきましたがそちらでも?」
淡々と応えていた彼女は少し躊躇いを見せながらも従順に頷いた。
「……ええ、構いませんわ」
「ご安心を、貸しきりにしています」
少しだけ安堵したように息を吐いた。
「そうですの…」
「何か好物などはございますか?」
「……特に、ございませんわ。」
「それは」
「……しいていえば林檎がすきです」
ぽつりと彼女は呟いた
「わか、りました。今度林檎を使ったデザートを用意させます」
「……」
その答えを聞くとぼーっと周囲を眺めた。
「私は普段どこで過ごせば?」
「あっ…今からご案内しますね」
小さな屋敷のなかを案内する。とはいっても自身も来たばかりだが。車椅子に腰かけた彼女を動かす。
「こちらが自室です。荷物もこちらについていると聞いています。何か欲しいものなどがございましたらお気軽に」
「ありがたく存じます。……ひとつお願いが」
「何でしょう?」
「純度や質は構いませんので大容量の鉱物を用意していただけますか?」
「……こうぶつ?」
「ええ、ルビーやガーネットなどの」
「?かしこまりました」
「しばしの間お世話になります」
そういって優雅にしなやかに頭を下げた少女はいつかの日、ポアロで出会った人物だった。
「ええ、こちらこそよろしくお願いいたします」
彼女はただただぼーっとしていた。何があっても眉ひとつ動かさなかった。パーティーに連れていかれても薄い愛想笑いを浮かべるのみでどんな凄惨な拷問を目にしても人が目の前で殺されても何一つとして興味が擽られないというようにただただぼーっと眺めていた。
「何を勘違いしているのか知りませんが」
小さな口を開いた。
「私は人形です。ただの人形です。何があろうと動揺することはございません」
そう告げる割りには高潔な眼差しだった。
暗闇のなかで黒い影が襲ってきた。
「誰だ!」
銃を構えるが光線が飛んできて隣の者が吹き飛ばされる。
銃を打ち込んでもポーテゴのような言葉と共に弾かれた。……弾かれた?
マグーやマッブローとどこかから聞こえた。意味はわからないが侮蔑を含んだ声色にろくな内容ではないんだろう、と察する。いくらか組織の敵対組織を思い浮かべる。
さて、ここからどうしようか。
今は組織としても護衛対象がいる。いかに守るか、ここは撤退だとしてどうやって逃げる?どうやって守りながら?後ろで椅子が引かれる音と物音が聞こえる。立ち上がったような音にあせる。勝手な行動は困る。後ろを振り向き制止しようとしたところで高らかな「アヴァデ」という声が聞こえた。しかし、それは遮られる。
「お止めなさい、愚か者達」
凛とした声だった。先ほどまで呆然としたように座り込んでいた人物と思えないほど。
その声を聞いて動揺したように黒い影が揺れる。何か言いかけていた人物はその口を閉じて慌てたように跪く。跪く?なぜ?どうして?彼女が跪かれるに足る人物ということか。祖国での知り合い?彼女はそこまで本国で地位があるのか?彼女の親の部下?ならばなぜこちらを襲ってきた?
次々に黒い影が傅く。
そんな様子に動揺することなく彼女は淡々と続けた。
「あなたがたはご存じないようですわね?この方達は私がこの国で滞在中面倒を見てくださっている方達ですのよ。……あなたがたの発言は目に余る無礼です」
「ええ、そうですね。でも誤解しないでちょうだい。わたくし達は我がに命じられて来たのよ。」
彼女は顔を綻ぼさせ目を輝かせた。
「お母様っ!」
流れるように白いドレスの裾を掴み腰を落とす。
「ごきげんよう、お母様。お会いしとうございましたわ。……ドラコはお元気?」
「……ええ、もちろん。……少し話をしましょう。いくつか話したいことがあるの。」
ある若い男の前で彼女は立ち止まり視線を向けた。うっすらと笑みを浮かべながら口を開く。
「あら、見覚えのある顔があると思えばあなただったの。セオドール・ノット」
すると刺すような視線が彼女へ向いた。
「…ポッター……」
掠れた声だった。
その言葉を聞いて大柄な男が慌てたように若い男の口をつかむ。そして何ごとかを囁き頭を無理に下げさせた。「何を言っているんだ!」という風に聞こえた。
僕ははっきりと見た。ポッターと言われた瞬間に彼女の睫毛が揺れ眉がよったことを。誰かの名前だろうか。
「申し訳ありません!レディー!レディエンジェル!愚息が……まことに……」
「お気になさらず。懐かしい名だわ」
笑みを消し去り何ら興味を持てぬように淡々と応えた彼女は母のもとへ続いた。そして扉の手前まで歩き振り返る。 「いらっしゃらないのですか?」
傲慢げな表情には不思議そうな色が見えた。
______________ 「どういたしましたか?お母様」
「ドラコが最近好い人ができたみたいで」
「お母様が仰るということは素晴らしい血筋の子なのでしょうね」
血筋?
「ええ、もちろん。……グリーングラス本家の次女よ」
「わたくしと同学年のダフネ妹かしら?確か……アストリアと言いましたわよね?」
「グリーングラス家は聖28一族のひとつ。その本家は間違いなく純血です。それにアストリアはスリザリン。お母様も安心でしょう」
「じゅんけつ……?」
その降谷の言葉に母親は顔をしかめた。それまで降谷の存在に気づいていなかったか無視をしていたのに無理やり気づかされたようだった。軽蔑の光が瞳をよぎった。「まあなんて醜いのでしょう」とでもいうように冷酷な眼差しに変わる。
「ああ、そういえばいましたね、あなたも大変ねミッシェル。マグルが側仕えだなんて」
「やはり我が君に進言するべきでした」と悔やむように告げる母の背を彼女は優しくさする。
彼女は赤い唇を歪めた。
「わたくしは魔女です」
そう告げた。
「あなたは信じてくださらないでしょう。でもわたくしはこの国に来られてとても嬉しいのです。わたくしはこの国が好きなの。もちろん、あなたも。ずっとこの国に来たかった……」
彼女は両手を広げ愛おしそうに瞳を細める。
途端に彼女は真顔になって長い睫毛の影を頬におとした。
「今の魔法界はあまりにも危険です。……そして危うい」
「あなたはこの国に来たことがあるんですね?」
「……なぜ?」
「杖を返してちょうだい」
「無理だな」
彼女が指先を動かす。
「……あまり、手の内は明かしたくなかったのですが……アクシオ」
あとがき
オリジナル設定やまもりです